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サーフィン!

初期ビーチ・ボーイズ論考

「人間はどこまで明るくなれるのか?」初期のビーチ・ボーイズの楽曲にはあたかもそんなある種の限界に挑戦していたかのような天真爛漫さがある。ビーチ・ボーイズとはよくも名付けたものだ(彼ら自身が命名したわけではないそうだが)。サーフィン、車、「ガールズ」、カリフォルニア、色々な意味でとどまるところを知らない60年代初期の自信にあふれたアメリカの繁栄がそこにはある(「リトル・ホンダ」なんて曲があるのも貿易摩擦やジャパン・バッシングの現代からは考えられない)。「サーフィンにいこう」と明るく呼びかけ、「月明かりの下で踊らない?」と女の子を誘い、アメリカ中の女の子が「みんなカリフォルニアに来てくれたらいいのに」とあり得ないようなことを望み、「親父さんに取り上げられるまでTバードを乗り回す」。なんだかとっても楽しそうだ(それぞれの元ネタはどの曲でしょうか?)。
でも、やっぱりすごいのはそんなこの時代の空気を見事な音楽にプロデュースしたブライアン・ウィルソンの天才だろう。上に一例を挙げたマイク・ラヴのお気楽な歌詞もまぁよくもここまでやるなぁ的なすごさがあるけど、フィル・スペクターの「ウォール・オヴ・サウンド」を見事に消化しながら時代の雰囲気とサーフィンや車といった夏の定番を音像化していった才能は誰にもマネできないだろう。試しに彼らのベスト版を一枚聴いてみればいかにその音楽がいつまでも夏の定番といわれるような素晴らしいものであるかがわかるはず。
しかしそれはあくまでバブルでしかなかった。泳げなかったビーチ・ボーイズのリーダーが想像で創り上げた音の虚像はいつかなくなる運命にあった。それはブライアン個人の中にもあらわれてくるし(「イン・マイ・ルーム」ですでにその片鱗があらわれているが)、「アメリカの繁栄」そのものがベトナム戦争の泥沼化や大学紛争の中であらたな時代精神に取って代わっていく。「ファン・ファン・ファン」がケネディ大統領暗殺の日に書かれたというのは示唆的だ。時代は楽しさよりも社会的なもの、内省的なものを求めていく。天才ブライアンはそのことに気付いていたのかもしれない。「終わりなき夏」はあっけなく終わったのだ。

初期ビーチ・ボーイズの名曲達

サーフィンUSA:チャック・ベリーのSweet little sixteen(聴いたことないのだがどんな曲なのだろうか?)から借りたメロディにサーフィン用語を載せた軽快なロックナンバー。夏といったらこの曲というべき定番曲です。

ドント・ウォリー・ベイビー:スペクター流の「ウォール・オヴ・サウンド」と完璧なハーモニーに彩られた最高のバラード。ブライアンの天才をいやというほど感じられる名曲。

ファン・ファン・ファン:イントロのギターから圧倒的なコーラス、間奏のオルガン(?)までとにかくかっこいい。このドライヴ感はたまらない!個人的には彼らの最高傑作だと思います。

2003年10月19日

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