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three years hill

三年坂 by グレープ

「さだまさしは現代日本最高のミュージシャンである」というテーゼは「カール・マルクスが世界最高の思想家である」というのと同じくらいの確率で真であるが、一言で言うならばこのアルバムはそのさだまさしのすばらしさが凝縮されたようなアルバムとでもいうことができようか。

さだまさしと吉田政美がやっていたグレープが1975年に中野サンプラザで行なったライヴを収録したライヴアルバム。グレープのベスト盤的な選曲の妙がやはり何よりの魅力であろうが、それらをつなぐいかにも落研出身らしいさだまさしの軽妙な語りも聴いていて心地よい。この時代のフォークグループのライヴはきっとこういうものなのだろうなあという期待を裏切らない、当時の息遣いが聞こえてきそうな、70年代をそのまま詰め込んだような雰囲気がすばらしい。

グレープというととかく「精霊流し」や「無縁坂」、「縁切寺」といった曲群に代表される「抒情派フォーク」として考えられがちだけれども、個人的にはさだまさしの楽曲は単なる「抒情派」を超えたストーリー性豊かな魅力にあふれているように思う。ここに収録されている作品の中では「フレディもしくは三教街」なんかがその代表だが(後年の「風に立つライオン」なんかに通じるものがあるだろう)、実に深い世界をつくりだしている名曲だと思う。上述した落語の素養も生きているのかもしれない。

もちろん上述したような「これぞグレープ」的な作品もすばらしい。上のリストに加えれば「ほおずき」は涙なしには聴けない名曲だ。

しかし、意外な音楽的広さを感じさせるところも多い。例えばコミカルな「朝刊」であるとか、なんとも言えない異国情緒にあふれるデビュー曲「雪の朝」とか。それとインストゥルメンタルで演奏される「バンコ」や「第一印象」といった曲ではフォークというよりもロックに近いようなアレンジがなされていてそれも新鮮だ。

このアルバムがさだまさしのではなくグレープのそれとして存在していることを示しているのが吉田政美のパート。完全にさだまさしの陰に隠れているけれども上述の「バンコ」や「絵踊り」は中々良い。とくに後者は詩的にも音的にも一度聴くと忘れられない名曲だと思う(「日本語ロック」といった感じか?)。

楽曲、演奏、語り、すべてがすばらしい。個人的に日本語のアルバムの中ではお気に入りの筆頭にあげたい一枚。

グレープ・ライブ 三年坂 完全盤

2006年4月5日

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