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ロンドンでのライヴ

Beach Boys '69(Live in London)
by the Beach Boys

ビーチボーイズというバンドは天才、ブライアン・ウィルソンの名前と歴史的名盤『ペットサウンズ』(およびその続編になるはずであった『スマイル』)としばしば密接にして不可分に結び付けられてきた。そのような言説の中ではビーチボーイズは(善し悪しは別として)ブライアンがいたバンドという以上の役割は与えられない。

しかし、このアルバムはブライアン抜きのビーチボーイズがライブバンドとしていかにクリエイティヴな活動をしてきたかということを何よりも雄弁に物語る。三十数分の中にサーフバンドとして出発しながらもブリティッシュインベージョンやフォークロックの台頭の中をタフに潜り抜けてきた彼らの歴史が凝縮されている。

ライナーによると表題に偽りありで実は68年のロンドンでのライブから収録されたもの。曲目から言えば「カリフォルニアガールズ」や「バーバラアン」などサーフバンドとして絶頂にあったときのヒット曲から『ペットサウンズ』の楽曲、そして最新のシングルにいたるまでどの曲も力強く、客席と一体となった生演奏のすばらしさが堪能できる。ブライアン主導のスタジオ録音版もまたチャーミングだけれども、それらが生演奏に耐える正真正銘のヒット曲であったことがここで証明される。さらに付け加えれば、かれらのルーツとも言える「心には春がいっぱい」はもはやため息をつくしかない美しさ。

冒頭の「ダーリン」~「素敵じゃないか」~「スループジョンB」の流れやリクエストで歌われる「神のみぞ知る」~「バーバラアン」が生演奏のすばらしさを伝えてくれる好演だ。

また「ダーリン」や「恋のリバイバル」は個人的にはスタジオ録音版ではいまいちそのすばらしさを実感できなかったが、こうして聴いてみるといかにそれがすばらしい楽曲であったかが再認識できる。

ただやはり白眉は「グッドヴァイブレーション」。(演奏者、観客ともに)絶好調の興奮の中で演奏されるこのトラックを聴けば、ロック史上最高の一曲にあげられたこともあるこの曲が単なる実験音楽ではなく極上のポップソングとしても成立しているということが実によくわかる(おそらくこのバランスが維持できなくなったとき、『スマイル』は挫折すべくして挫折した)。カールの冒頭の「Ah~」には何度聴いてもゾクゾクさせられる。

それにしてもオーディエンスのこのノリのよさはなんなんだ。彼らが英国をはじめとするヨーロッパでいかに人気を博していたかがよくわかる。

音楽って無条件にすばらしいなあって思えるそんな一枚。

Beach Boys '69

2006年3月31日

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