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ザウィナー


The Winner Takes It All by ABBA

The winner takes it all
The loser standing small
Beside the victory
That's her destiny

 この曲"The Winner Takes It All"がアバの最高傑作のひとつであることを否定する人はほとんどいないと思う。簡潔だがきれいな韻を踏んだ歌詞は何度読み何度聞いても心打たれるものがある。この曲をはじめて聴いたときまだ高校生だったぼくは人間関係には別れがあるということも"miss"というなんとも一言では訳しがたい言葉の意味もよくわからなかったが(今だってよくわかっているとはいえないが)、それでもこの曲のなんとも言い表すことのできない悲しい美しさはすんなりと理解できた。

 「アバの四人はスウェーデンのローカルバンドだったころ、仲のよい二組のカップルだった。ところがバンドが世界的知名度を得るに連れて悲劇が訪れた。ボーカルの女性がバンドの二人の男と同時に付き合うようになったのだ。残された女性は悲しみと孤独の中で数々の名曲を書き上げ、その曲を彼女から男を奪った女性が歌うことでアバはさらに世界的な名声を手に入れていく…。」
 誰が書いたものか、いつどこで読んだものか忘れてしまったが、昔読んだ大体こんな内容の文章がとても印象深かった。そのような背景が実際にこの歌にあるのだとしたらこの歌の物悲しい美しさもわかるような気がしたからだ。
 確かこの文章にはどこまでも高く青く広がる空を写したスウェーデンのどこかの写真が添えられていたような記憶がある。実際北欧の空は高さと青さが違う気がする。

 残念ながら上の文章は事実ではない。アバは確かに二組のカップルからなる四人組みだったが、実際に曲を書いていたのは二人の男性だったし、二組のカップルは単に離婚したに過ぎない。曲の背景にある悲劇性がうすめられたからといって、この曲の価値が下がるものではないのはもちろんである。そこに横たわっているのは特定の個人から離れた一般的な、つまり誰もが接近しうる主題だ。
 ただそこには作者の個人的な思いもまた入り込んでいる。アルバム "Super Trouper"のライナー・ノーツによれば、この曲の作詞をしたビヨルン・ウルヴァースは彼とアグネタ(この曲を完璧に歌い上げている)との離婚が作詞に影響を当てたことを認めている。つまりこの歌はもとの夫が(多分に個人的な感情もこめて)かいた詩をその別れた妻が歌い上げたわけだ。上述のエピソードほどではないにしてもそこにはさまざまな思いがこめられている。ただかれの続く言葉はこの曲がそんな個人的事情を超えた普遍性を持つことを、そしてなぜこの曲がここまで美しいかを伝えている。

"There were no winners in our divorce".

2004年9月10日

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